ミネイワールド

ライターミネイの頭の中を投影してるブログ

ライターの嶺井が綴る
嶺井が気になるあれこれブログ

テーマ:初夜

「ねぇ、外を見たいわ」
そう言うと男は窘めるように私に言った。ここには開けられる窓は無いよ、と。

暖房が効いた部屋。大きなベッド。ソファやテレビ、広いお風呂、そして男。ここには私の欲しいものが揃っている。国道沿いの大きなラブホテル。女子会以外で入るのは初めてだ。
ようやく御用納が終わった12月28日。クリスマスが遠い昔であるような錯覚に陥ってしまう、年末特有の慌ただしさ。そんな中で彼は私との時間を作ってくれた。
遠い昔、そう、クリスマスだった。彼が私に告白した。その時はただただ嬉しかったのに、今はなんだか息苦しい。少しだけ外の空気を吸いたかった、それだけなの。

ジャケットを脱いでハンガーに掛ける仕草を眺めた。女はこれが好きなんだろと言わんばかりに、ネクタイを緩めている。好きだと思っていたけれど、その仕草はなんだか少し違って見えた。
ほんの少し高いだけのディナーでさえ、私は不慣れだった。そういう所に気を回してくれない男だということは、知り合った当初から感じていた。
そんな男でも、行為を目の前にすると少しは違うのだろう。今は私の気を紛らわそうと話しかけてくれている。冷蔵庫にこんなのが入ってるだとか、クローゼットが大きいだとか、そんなどうでもいいことを延々と。こういう時って男の方がリードしてくれるものじゃないのかしら。

「ねぇ、シャワーって、どっちから行く?」
そう問いかけると、先に入っていいよと言われた。どれが正解か私には分からないけれど、それってつまり私は準備してベッドで待ってなきゃいけないのよね。

「分かった、じゃあ少し待ってて」
と告げて、お風呂場へ向かった。
手持ちの下着の中で一番可愛いものを選んだけれど、上がる時は着けるべきなのか、脱いでおくべきなのか、それすら分からない。どうしたらいいのかしら。脱がせるのが好きな男もいるって聞いたことがあるし、恥ずかしいし、服は着て出よう。
剃り残しがないか確認して、軽くシャワーを浴びて、ついでに歯も磨いた。多分、これで大丈夫。

「髪の毛も洗ったんだね。それじゃ僕も行ってくる」
ベッドから立ち上がり、彼はそう言った。私はまだベッドに触れてすらいない。彼が座っていた所だけシーツが乱れている。他はピシッとしているのに。彼の痕跡がなんだか生々しい。それに髪の毛って洗わないものなのかしら。

髪の毛を乾かしながらソファに座ってテレビの電源を入れた。なんだかよく分からないメニューが出てきた。これは何?ただテレビを見て気を紛らわそうとしただけなのに。外を見る自由も、テレビを見る自由も、ここには無いのかしら。ここにいる相手と向かい合うことを強制されている気がして、さらに息苦しくなった。
仕方なくスマートフォンSNSを見た。普段はあまり見ないけど、他にすることが無い。世間は年末の話ばかり。特番がどうだとか、仕事が終わったとか、まだ終わらないとか、そんなことばかり。SNSは川の流れみたいね。入ったら流されるしかない。入らなければ自由なのに。

彼がお風呂場から出る音がした。体を拭いている。今から服を着るはずだから、もう少しだけ時間はありそうよね。もうちょっとだけ待ってほしい。
そう思ってたのに、彼はバスローブを着たまま出てきた。早い。
彼がこちらに近づいてくる。隣に座ると思ったら脚に手をかけてきた。持ち上げられた。何も考えられないままベッドに運ばれた。ねぇ、もう少しムードとか考えられないの?お姫様抱っこは確かに嬉しいけど、今じゃないでしょう。と考え始めた時には押し倒されていた。そのままキスをされた。反射的に呼吸が止まる。息苦しさを忘れてしまった。嬉しさが募る。キスひとつでこんなに嬉しくなるなんて、とってもずるい行為だわ。自由を奪われて分からないことに戸惑って、挙句に押し倒されているのに、キスするだけでこんなに嬉しい。なんで。

何秒経過したのか分からないけれど、私たちの唇は離れた。息を整える。3回くらい呼吸をしたら、またキスされた。今度は舌が入ってきた。びっくりして思わず声が出た。口は塞がれているのに声が出た。そうか、鼻で呼吸すればいいのね。私の声なんて意に介さず、彼は私の口内を蹂躙している。私の舌を舐めまわし、歯の裏、前歯、唇、あらゆる所を舐(ねぶ)られた。

満足したのか、やっと彼は口を離した。舌同士が唾液で繋がっているのが見えた。頭がボーっとする。思考がまとまらない。今の私の顔は、きっと見れたものじゃないと思う。口を開けたまま、彼を見つめることしかできない。その彼は、相変わらず優しい表情をしている。けど目がいつもと違っていた。ニヤっとした雰囲気の目つきになっている。

それからまた一呼吸を置いて、舌が入ってきた。また抗えずにいると、彼の手が私の乳房に触れた。また驚いてしまい、体がビクッと動いてしまった。そしてまた、彼も先ほどと同じく何も意に介さない。自分だけ声を出したり体が動いたり、なんだか恥ずかしい。呼吸も荒くなっている気がする。
下着が邪魔なのか、彼は私とベッドの間に手を入れてきた。と思ったらその手がすぐ出てきた。どうしたのだろうと考えていたら、シャツの裾から手が入り乳房へと到達した。その時、ホックが既に外されていることに気づいた。私が外す時より早い。服の上からにも関わらず、ベッドとの隙間からだというのに。そう思うと少し笑ってしまった。彼は口を離し、微笑みながらどうしたのと尋ねてきた。その時に、呼吸が荒いのは私だけじゃないと気づいた。彼の呼吸音も私と同じだった。
「ブラのホックがいつの間にか外れてて、思わず笑っちゃったの、ごめんなさい」

服を脱いでと彼が言ったので、従った。下着の感想は聞けそうにない。上半身を起こしシャツを脱いで、情けなく肩にかかったブラを外した。部屋が明るかったので、少し恥ずかしかった。彼が私の乳房を見た。一瞬だったけれど、確実に見ていた。見られるのは恥ずかしい。でも少し嬉しい。求められているのは嬉しい。
私の後頭部に手を回し、そっと支えながら優しくキスをされた。また舌が入ってくると思い口を開けたが、すぐに離れた。彼の口は私の首にあった。首を舐められている。ぞわぞわする。くすぐったい。でもなんだか、くすぐられている感覚とは違う。声が出てしまう。恥ずかしい私の声色が、部屋に響く。また押し倒された。彼の舌は首から鎖骨に到達していた。いつのまにか私の左乳房は彼の右手に包まれていた。彼は少し体勢を私の足元へずらし、乳輪の周りを舐め始めた。さっきまで感じていたぞわぞわ感は、いつのまにかゾクゾクするような感覚に変わっていた。乳首が腫れてる気がする。彼の吐息がわかるくらい敏感になっている。もう時間の感覚はないけれど、しばらくそのまま舐められ続けていた。その間、私の乳首はどんどん敏感になっている気がした。
脳髄にいきなり刺激が走った。同時に声が漏れた。彼が私の乳首を舐めている。舐められ、吸われ、たまに甘噛みされてる気がした。痛い。気持ちいい。また違う刺激があった。右手でも私の乳首は弄ばれていた。摘まれ、引っ張られている。刺激を受けるたびに声が漏れる。体がビクビクと跳ねる。唐突にそれが終わった。彼の顔が視界に戻ってきた。頭を優しく撫でられた。何も考えられない状態だったけれど、彼の顔を見ると安心した。キスをしてくれた。唇が触れるだけのキスを何度かしてくれた。
安らぎの中でキスをしていたら、彼の手が私のスカートの中にあることに気付いた。指先が内腿を辿り、ショーツに触れた。彼はまだキスをしてくれている。目を開けて彼を見るのが恥ずかしい。布越しに私の秘部に触れている。濡れていることに気づいた。今までこんなに濡れたことは記憶に無い。
クロッチ部分を横にずらされた。脚に力が入ってしまう。つい脚を閉じてしまったが、彼は私の頭を撫でた。ゆっくり脚を開くように彼の脚が誘導してくれた。そのまま彼の脚は私の脚の間に収まった。いくら閉じようとしても、もう閉じれない。

指が触れた。濡れている。恥ずかしい。彼はわざと音を立てている。なんでそんなことするの。いじわる。
陰核に触れられた。皮をめくられ、露出してしまった。もう声を抑えることも忘れてしまった。抑えることに意識を向けることすら許されていない。私はただ、彼のなされるがまま体を提供しているのだ。体を許すとは、きっとこういうことなんだ。
絶頂を迎えた。頭は回らない。思考能力が低下している。何も考えられない。時折、少しの痛みが走った。指が入っているのだろう。我慢できる。それよりも、彼は同時に陰核と乳首を刺激している。その刺激にかき消されている。
彼は私のショーツを脱がそうとしていた。かろうじて腰を浮かせることができた。スカートも同時に脱がされていた。彼は魔法でも使っているのだろうか。私を守る布はすべて無くなってしまった。彼もバスローブを脱いだ。そのうち口でしてほしいと言われたが、なんの事か分からなかった。朦朧とする頭で、うんとだけ答えた。

脚をさらに広げられ、彼がその間に入った。恥ずかしい体勢だということだけは分かった。顔を横に逸らした。見られたくない。
彼の腰が私の中心部分に近付くのが分かった。痛い。声にも出した。痛い。朦朧とした頭が急に冴えた。あまりに急すぎてパニックにもなっている。痛い。
「もう入ってるの?」と恐る恐る訊く。少し入ってると答えが返ってきた。少し。これで少し。ねぇ、お願い、少し待って。そう懇願した。私には行為を中断する自由もなく、お願いするしかない。せめてゆっくり。ゆっくりして。
彼はそのまま私を抱きしめて、頭を撫でて、キスをしてくれた。そしてすこし腰を突き出した。私が顔を歪めたタイミングでまた頭を撫でキスをした。そのルーティンを何度か繰り返した。あと何度繰り返すのだろうか。怖くなり、一気に最後までしていいよと言った。本当にいいの?と返ってきたが、先が見えないこの状況よりずっといい。無言で頷いた。そして本日最大の痛みが私を貫いた。涙が出てきた。動かないでと大きな声が出た気がする。彼は私を強く抱きしめた。私も彼の背中に手を回した。少し痛みに慣れたころ、彼の目を見た。感謝と申し訳なさが同居したような優しい目をしていた。破瓜の痛みより彼の目に引き込まれる。愛おしい。
「動いていいよ」
そう告げると、彼は本当に少しずつ動いた。痛みはあるが、これくらいなら耐えられそうだ。それより奥を突かれるたびに内臓を持ち上げられるような感覚が襲ってくる。息が勝手に漏れる。彼はたまに乳首を刺激してくる。その感覚は変わらず、私の体は勝手に跳ねる。


痛みに慣れてきた頃、彼は果てた。いくよ、と告げ、体を震わせて、果てた。

体の奥底まで侵入していた彼が抜けていくとき、勝手に声が漏れた。
久しぶりに脚を閉じた。そんな気がした。痛みがあり、うまく体を動かせない。彼は私の頭を撫で、ありがとうと言った。たまらなく愛おしく感じ、キスして欲しいとお願いをした。私は今日、自由を捨てた気がした。