ミネイワールド

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完全犯罪とは

額を穿つ音と共に、武田は脱力していった。

鉄板とワイヤー、強力バネによって自作されたボウガンから射出された棒状金具により、羽根井は武田を死に至らしめた。足立区のマンションの一室。今までのセクハラやパワハラに対する意趣は、狂気によって完全に返された。

 

死亡時刻から4時間遡る。武田の上司が声をかけた6人での懇親会の中で、羽根井は武田に2人で抜け出そうと誘った。羽根井は度々のハラスメントを通じて、この男は自分に気があることを知っていた。武田は上司に妻がカンカンだと言い、羽根井はペットの食事の時間だからと伝え、その場を抜け出した。道中のコンビニで酒を買い、曇天で蒸し暑い歩道を歩いた。20時。人通りはまだまだ多く、人混みに溶けながら羽根井の自宅へと向かった。

 

入室してすぐ、武田はジャケットをハンガーに掛け、ソファに座り缶ビールを開けた。羽根井は鞄の中の粉末を黒いパンツのポケットへ入れた。武田をシャワーへ促し、一緒にどうだと言う言葉を躱し、準備を始めた。缶ビールは中の液体の変化が分からない為、非常に好都合だった。ビールの中に先ほどの粉末を入れ、ビニール袋をすぐに取り出せるか確認した。

 

サイレースという睡眠導入剤がある。効果が強く、犯罪に使用されることもある。混入防止のため青く着色されているが、その警告は銀色の缶が隠した。シャワーを浴び終えた武田は醜い肢体を派手なボクサーパンツとバスタオルで隠し、残っているビールを全て飲み干した。それでは私もと、羽根井はシャワー室へ向かった。少しお手入れをして上がりますねと付け加え、水音と共に時間が過ぎるのを待った。40分ほど経過し、シャワー室を出ると、武田はベッドに倒れていた。

 

鉄板とパイプ、既に万力で縮められているバネを組み合わせ、即席のボウガンを作成した羽根井は、武田の頭にビニール袋を被せた。ビニール袋の首元をくくり、血が溢れないようにした。そのまま足を引きずりシャワー室まで運び、武田の額をボウガンで射抜いた。

 

ビニール袋に溜まった血を排水溝に捨て、足首と頚動脈を切った。羽根井は、すでに動かない武田へ心臓マッサージを施した。武田の死体からはみるみる内に生気が消え、シャワー室の床は血で埋め尽くされた。

 

浴槽のふちに脚を掛けさせ、重力で残りの血が抜けていくような体勢にし、羽根井はそのまま就寝した。

 

翌日、羽根井はインターネットで苛性ソーダと希硫酸、ステンレス製の大鍋を注文し、ホームセンターで電動ノコギリを買った。

血が抜けていくらか軽くなった武田の身体に電動ノコギリの刃を通す。脂や繊維、組織が刃の目につまり、切断を2回するたびに刃の交換・洗浄を行った。四肢関節は太いため、関節から少しズレた部分を切断した。その後、首を落とし、腹を割き内臓を取り出した。骨盤を分離し、背中へ縦にノコギリを当て、肋骨の付け根を切断する。背骨を取り、肋骨同士を繋ぐ皮膚を割き、人体の分解が完了した。

 

インターネットで注文した商品が届き、ステンレス製の大鍋に苛性ソーダを入れ煮詰めていく。50Lの苛性ソーダが5.5Lほどになった頃、武田の肉骨片が苛性ソーダの中に投入された。肉部分への化学反応が鈍くなると、羽根井は同じ作業を繰り返した。苛性ソーダを煮詰め、肉骨片を洗い、化学反応を起こし、1週間が経過した頃には骨片が残るのみになった。

 

ニッケル合金を含有したステンレス製の大鍋で、希硫酸を煮詰める。濃硫酸と呼ばれる程度の濃度に辿り着き、煮沸させたまま骨片を煮詰める。骨片に付着する中和物質を洗い流し、さらに煮詰め、骨片が消えていく。

 

残った溶液は産業廃棄物としていくつかの廃棄業者へ分けて処理を依頼した。怪しまれない程度の分量を受け渡した。

 

ガスの消費量から足がつかないよう、ガスボンベと持ち運び式ガスコンロで作業をした。

 

こうして、死体の隠蔽は完了した。武田のSuicaと服を浮浪者に渡し、東京駅から新宿まで使わせアリバイ工作も完了した。人混みの中で武田だと判別するのは困難だろう。

 

 

っていう完全犯罪はいかがですか