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ミネイワールド

ライターミネイの頭の中を投影してるブログ

ライターの嶺井が綴る
嶺井が気になるあれこれブログ

大学卒業してちょっと経った頃のSSを見つけたから手直しして世に出してみる

なぜか冷たい

 

昨日買った缶コーヒーを机に置きっぱなしにしていた
冷蔵庫に入れるため持ち上げると、冷たい


昨夜は熱帯夜だ
どうしてこんなことが


と彼女に話してみた


「へー、それ私みたいね」

「どこが?」

「冷たいでしょう?」

「そう?」

「そうなの」

「僕はきみのこと好きだよ」

「私は冷めたの」

「そっか」

「それじゃ、さよなら」

 

その晩、机の上に置いていた缶コーヒーは
凍ってしまうんじゃないかと思うほど冷たかった

 

寝苦しい夜が続くので、枕元に置いてみた
冷気が顔に当たって心地よい

 

安眠の友は、毎晩僕を寝かせてくれる
いつまでも冷たく冷えててほしいとさえ思う


残暑が続く、とある夜
友の不調に気付いた
どうにも冷えてくれない
このままだと眠れないじゃないか


そう考えていると、元・彼女からメールがきた


『やりなおしたいの』


冗談じゃない
僕は今、この友の不調で頭がいっぱいだ


『今はきみに使う時間はないよ』

 

友の不調が起きた夜から10日が過ぎた
たまに冷えることもあるが、だいたい熱くなったままだ
こんなに熱いんじゃ冷蔵庫にも入れられないじゃないか
いっそ捨ててしまおうかとも思う
それでも捨てなかったのは、不安だったからだ
友を心配していたからだ


そういえば元・彼女から、またメールが来ていた
『時間ができたら連絡して』
まったく、一方的に捨てたくせに、勝手なやつだ
友が快復するまで、連絡をする気にはなれない

 

といっても、この友の容体は芳しくない
あきらめるのも手か、と考え、気分転換に元・彼女にメールをしてみた


『失って気付く大切さがあるんだ
僕はもう大切なものを失いたくない
だから、今はきみのことは考えきれない』


電話だ

「新しい女ができたの?」

「そう思う?」

「思わない」

「その通り」

「大切なものって?」

「缶コーヒー」

「大切なの?」

「とても」

「バカ」

「そんな僕の恋人だったきみは、もっとバカだ」

「また好きになるなんて、人生の汚点よ」

「きみの人生はシミだらけだね」

「缶コーヒーのシミは無いわ」

「そのシミは僕のものだからね」

「あなたをクリーニングに出してやりたいわ」

「きみも負けてないよ」

「漂白してあげる」

「やめて、僕はこのシミを消したくない」

「シミが薄くなるころに、また連絡するわ」

 

友は、常温になっていた
僕としてはもう少し冷えてほしいが、熱くないだけ救われた


それから徐々に友は冷えていった
安定してきている
これなら大丈夫そうだ、憂いは消えた


「シミは残ってるけど、もう目立たないよ」

「そう、私もそんな感じ」

「よりを戻すの?」

「どうかしら、また冷めてきたわ」

「そうなんだ」

「でも、あなたといるなら、これくらいがいいのかも」

「そう」

「ええ、冷たく接することもあるはずだけど、それでもいいなら」

「冷たいほうがいいな」

「あなた、マゾだった?」

「いや、でも、友人も恋人も、冷たいくらいがちょうどいいって分かったのさ」

「そうかも」

「それじゃ、シミだらけの僕をよろしく」

「毎年、漂白剤をプレゼントするわね」

「やめて」

 


end