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ミネイワールド

ライターミネイの頭の中を投影してるブログ

ライターの嶺井が綴る
嶺井が気になるあれこれブログ

毒は斯くありき(プロット4)

毒は斯くありき(プロット1) - あれも欲しいしこれも欲しい

毒は斯くありき(プロット2) - あれも欲しいしこれも欲しい

毒は斯くありき(プロット3) - あれも欲しいしこれも欲しい

 

翌朝、目を覚ました芳乃は、隣で眠る男を認めるとため息をついた。

「また甘えちゃった」

そう独り言を呟き、ベッドを出てキッチンへ向かった。食器棚からコップを取り出し、ミネラルウォーターを注いだ。

 健には嫌われたくない。それでもどうしようもなく甘えてしまう。そんな自分の行動原理を、芳乃はとても人間らしいと感じている。そして、人のままでいたいと考えている。

「ねぇ、健、起きて」

空になったコップをシンクに置き、ベッドに向かいながら声をかけた。

「んん、いま何時」

「十時二十分」

「んん」

寝返りをうち、芳乃に背中を向けた。

「三限からだよ。起きて」

「……起きる」

再度キッチンへ向かい、コップとミネラルウォーターをベッドに戻り健に渡した。

「ねぇ、健、あのね、私たち付き合おうよ」

「芳乃」

「なに?」

「まず好きとか言うべきじゃん」

「好き」

「多分、俺も」

「知ってる」

「多分でいいの?」

「健はさ、私が他の人に頼るのが嫌だから、鍵をくれたんでしょ?」

「どうだろう、そうなのかな」

「そうなんだよ。きっとね、私と同じで、独占欲が強いの」

何かを掴む身振りを交え力説を続けた。

「誰にも渡さないぞーって気持ち、ない?」

「ある」

「ほら、ね。だから、これからよろしく」

「んん、んー?」

寝起きで回らない頭を使い、健は思考をまとめている。

「そうなのかもな。うん、よし、よろしく」

その応えに満足した芳乃は、立ち上がり部屋のカーテンを開けた。秋晴れだ。健は光から目を背け、スマートフォンを起動した。

「芳乃、傘を持っていけよ」

今日の午後から一週間、予報には雨のマークが並んでいる。やばい、と言い残し芳乃は傘を取りに自分の部屋に帰っていった。健は昼食のカップ麺を食べ始め、半分ほどのところで課題に手をつけていないことに気づき、思考を止めた。

 

 

 芳乃は変なやつだ、と健は考えている。同性の友人がおらず、なんなら疎まれているようにも見える。

「芳乃!」

他学部の男二名と話している芳乃をサークル帰りに見つけた。

「お、健だ」

いつもの少年のような笑顔でこちらを向いた。

「いつもすごいぞ。おつかれさん!」

「おう」

それじゃ、と男たちは決まり悪く消えていった。友達なのかと尋ねたくなったが、自分の中の嫉妬心に気づき、やめた。

「今日も家に来るのか?」

「行くよー。へへ、今日は美味しいご飯を作っちゃうよ!」

「お、楽しみだ」

 健の家に着き、ビーフシチューを作りながら芳乃は思考を巡らせている。健を好きな気持ち、ずっと忘れないでいたいと。どうしたらこの感情を保っていられるのかと。そして、ビーフシチューが完成する頃、忘れることはなさそうだという結論に至った。

「健、お皿とって」

「どの皿?」

食器棚の前で悩んでいる。カレー皿に決まっているのに、と芳乃は思う。そんなところが可愛くて好きだ、とも思った。

「底が深いやつ、カレー皿」

「オッケー」

健も芳乃も、誰にも邪魔されないこの時空間で幸せを享受している。このままずっといられたら、と考えている。

「ねぇ、私、そろそろ人じゃいられなくなりそう」

シチューを皿に移しながら、真剣な顔で告げた。

「あのね、今、私は『健に嫌われる』って発想が無いくらい満ち足りてるの。これ以上望めないくらい。でもそんなの人間らしくないの。不安と欲があるから、人って人間なんだと思う」

健は芳乃の言葉を反芻した。不安と欲。それなら今の俺はとても人間だ。芳乃を独占したい。嫉妬心に悩んでいる。

「私、人間でいたいの」

「芳乃、それが人間なら、俺は人間じゃなくていい」

「どうして?」

「不安も欲も無くしたい。平穏な心で芳乃と一緒にいたい」

食器を机に運びながら、芳乃は淡々と言った。

「私はね、昔も今もずっと死にたがってるの。でも、ただ死ぬんじゃなくて、人間として死にたいの。そして、どうせなら世界で一番美しい場所で、不安も欲もごちゃ混ぜにして死にたいの」

食事の用意が終わり、二人は椅子に座る。意を決した芳乃の言葉が健の耳を静かに突いた。

「一緒に死んで」