ミネイワールド

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毒は斯くありき(プロット2)

bor-1124.hatenablog.com

空になった二つのグラスを店員の女の子が片付ける。健は同じものをと注文し、程なくスーズトニックが目の前に置かれた。

一口飲み、ふと隣を見るとそこにいた奇妙な存在と目があった。何度か見た顔だ。おそらく同じ農学部の学生だ。二年次の頃、学部全体の授業でその顔ーーというよりその色ーーを見た覚えがある。

「さっきの話さ」

その奇妙な存在は話しかけて来た。

「私、さっきのあなたの話、分かる」

健は戸惑いながらも、そう、とだけ返した。

「多分さ、このピンクが春には足りないと思うんだよね。どう?」

「……ピンク。そうだなぁ、あまり見ないピンク色だ」

「いいでしょ、このジャケット。私が染めたんだよ」

コットン生地のテーラードジャケットだけでなく、チノパンもピアスもその色で統一されている。

「すごいな、凝り性なんだな」

「分かってくれる?へへー、良いでしょ」

少年のような笑い方だと考える健をよそに、その存在は続けた。

「桜色」

聞き慣れない単語が宙を舞う。

「この色ね、桜色っていうの」

 

健は怪訝な表情で訪ねた。

「桜ね、系統は同じかもしれないけど、もっと濃い色じゃないか?」

そういえば、私の名前は芳乃、と前置きを挟み、芳乃は返答した。

「あなたも農学部でしょう?安曇野先生の著書に写真が載っているのだけど、見てないの?」

ゲンチアナの香りを口に近づけ、思考をまとめ、健は応えた。

「今日、多分、見たな。ソメイヨシノのこと?」

そうよ、と芳乃は満足そうに頷いた。

安曇野先生はソメイヨシノの研究をしてるの。スポンサーがつかないから他のことも研究してるのだけど。廃材を菌床にして冬虫夏草を増やすのとか。先生は馬鹿げてるって言ってたけど」

冬虫夏草は蛾に寄生するだろ。木じゃ菌糸は育たない」

「それでもスポンサーがお金を出してくれるんだもの。無知なのにお金があるなんて不気味よね」

「そんなもんさ」

「それでね、その話は置いといて、春にソメイヨシノが咲けば、とっても素敵だと思わない?」

健は赤くなった顔を横に振った。

「毒の木なんて、どうしようもないな」

ーーーーそういえば、長袖なんか着て、彼女は暑くないのだろうか。