ミネイワールド

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毒は斯くありき(プロット1)

毒は斯くありき(プロット)

 

ソメイヨシノには毒があります」

農学部棟に流れる日常。キャンパスのBGMと化した植物学概論で、講師の台詞が健の耳に残った。

ソメイヨシノには毒がある」

 

 

染谷健は、自身と名を同じくするその桜の品種についての話に聞き入っていた。

ソメイヨシノ

花粉及び蒸散により樹木内に蓄積されている毒素が待機中に放出されるという話だ。接木の繰り返しで発生した変異であり、まだ毒を持たなかった頃は日本の国木に指定されていたらしい。現存する個体は国有林に約三十株。群生しているそうだ。そこで厳重に管理している限り、毒が我々の生活圏に届くことはない。さらにソメイヨシノは接ぎ木でしか増えないため、群生地が拡大することもなく、問題にはなり得ない。

ソメイヨシノのカラー写真がテキストに載っている。薄いピンク。薄紅をさらに淡くしたような、儚い花弁だ。

 

 

十六時半。第二体育館から乾いた打音が響く。室内シューズと床の接する音が耳に障る。

健はいつものように小林真二とペアでシャトルを打ち合っている。梅雨明けの蒸し暑い夕方。窓は閉められ、体育館には不快な空気が充満している。

「なぁ、この後飲みに行こうぜ」

「いいよ」

真二との会話は滅多に長引くことがない。それが健には心地よかった。

 

「なんか春って苦手なんだよな。淡い寒色と若緑だけじゃん。イベントもないし」

「そんなもんだよ。お前、春を何回も経験してるだろ」

「悲しいじゃん。寂しいだけだろ、春なんて」

「自分が春生まれだからって贔屓しすぎだ。冬はどうなんだよ」

真二はいつも正論で切ってくれると健は思う。他の奴らは、当たり障りのない会話で盛り上げることに終始するだけだ。

「冬も寂しいけどさ、春に何かあれば冬もそれを待って楽しめるだろ」

「GWでも待ってろ」

外気に曝される二階の外の席。グラスの氷はすでに溶けて、大粒の水滴がテーブルに落ちる。周辺の学生で賑わうこのダイニングバーは、一杯五百円のメニューを売りにしている。マスターも営業中に酒を飲むため、五の段以外の計算ができなくなるからだと、健は先輩から聞いた。

「そうだ、健、お前、夏休みはどうするんだ」

グラスに残ったアーリータイムズを飲み干し、真二は続けた。

「たまには実家に帰れよ。部活ばっかじゃなくてさ」

「そうだなぁ、来年は就活だし、今年は帰っておくか」

「あとおばさんからのメールも返せよ。俺に連絡が来てるんだよ」

「本当かよ、すまん、返しておくよ」

「んじゃ俺、明日バイトだから帰るよ」

千円札と五百円玉をテーブルに置き、真二は一階へ繋がる階段に消えた。