読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ミネイワールド

ライターミネイの頭の中を投影してるブログ

ライターの嶺井が綴る
嶺井が気になるあれこれブログ

毒は斯くありき(プロット5)

bor-1124.hatenablog.com

 

 小林真二は驚いていた。染谷健と竹下芳乃が交際していることにもだが、それ以上に健が共依存に陥っていることに驚愕していた。健は自立した人間だと信じていたし、女に言い寄られた程度でそれが変わるとは微塵も予想していなかったのだ。

 年の瀬、健に呼び出され共用棟の教室に向かった。健から事の顛末を聞いた。率直な感想として、まず何より二人を遠ざけようと真二は考えた。

「健、おばさんにはもう報告したの?」

とりとめのない話題から、真二は突破口を探すことに決めた。

「まだだよ。というか言うつもりはない。子どもじゃないんだ」

「なぁ、最近あまり大学にも来てないだろ。竹下が原因なんじゃないのか?」

堕落しつつある生活を突き始めた。原因は竹下だと真二は確信している。さらにおばさんを引き合いに出せばどうにかなるかもしれないと。

「そんなことはない」

少し怒った声色で健は応えた。なら、その感情はどう説明するんだと、真二は心中で笑った。

「あまり続くようなら、おばさんに言わなきゃならなくなるよ。もう少し竹下とは距離を取ったらどうだろう」

我ながら無理のない誘導だと自賛した。

「そうだな、考えておくよ」

健はそう言うと、空き教室を出て言った。急ぎすぎたかもしれないと真二は考えた。

 

「まさか真二にあんなことを言われるなんて」

独り言を吐きながら健は帰路についている。自分と芳乃の関係について、無関心でなく、応援するでもなく、まさか邪魔をするなんて、裏切られた気分だ、という旨を歩行中ずっと呟いていた。

毒は斯くありき(プロット4)

毒は斯くありき(プロット1) - あれも欲しいしこれも欲しい

毒は斯くありき(プロット2) - あれも欲しいしこれも欲しい

毒は斯くありき(プロット3) - あれも欲しいしこれも欲しい

 

翌朝、目を覚ました芳乃は、隣で眠る男を認めるとため息をついた。

「また甘えちゃった」

そう独り言を呟き、ベッドを出てキッチンへ向かった。食器棚からコップを取り出し、ミネラルウォーターを注いだ。

 健には嫌われたくない。それでもどうしようもなく甘えてしまう。そんな自分の行動原理を、芳乃はとても人間らしいと感じている。そして、人のままでいたいと考えている。

「ねぇ、健、起きて」

空になったコップをシンクに置き、ベッドに向かいながら声をかけた。

「んん、いま何時」

「十時二十分」

「んん」

寝返りをうち、芳乃に背中を向けた。

「三限からだよ。起きて」

「……起きる」

再度キッチンへ向かい、コップとミネラルウォーターをベッドに戻り健に渡した。

「ねぇ、健、あのね、私たち付き合おうよ」

「芳乃」

「なに?」

「まず好きとか言うべきじゃん」

「好き」

「多分、俺も」

「知ってる」

「多分でいいの?」

「健はさ、私が他の人に頼るのが嫌だから、鍵をくれたんでしょ?」

「どうだろう、そうなのかな」

「そうなんだよ。きっとね、私と同じで、独占欲が強いの」

何かを掴む身振りを交え力説を続けた。

「誰にも渡さないぞーって気持ち、ない?」

「ある」

「ほら、ね。だから、これからよろしく」

「んん、んー?」

寝起きで回らない頭を使い、健は思考をまとめている。

「そうなのかもな。うん、よし、よろしく」

その応えに満足した芳乃は、立ち上がり部屋のカーテンを開けた。秋晴れだ。健は光から目を背け、スマートフォンを起動した。

「芳乃、傘を持っていけよ」

今日の午後から一週間、予報には雨のマークが並んでいる。やばい、と言い残し芳乃は傘を取りに自分の部屋に帰っていった。健は昼食のカップ麺を食べ始め、半分ほどのところで課題に手をつけていないことに気づき、思考を止めた。

 

 

 芳乃は変なやつだ、と健は考えている。同性の友人がおらず、なんなら疎まれているようにも見える。

「芳乃!」

他学部の男二名と話している芳乃をサークル帰りに見つけた。

「お、健だ」

いつもの少年のような笑顔でこちらを向いた。

「いつもすごいぞ。おつかれさん!」

「おう」

それじゃ、と男たちは決まり悪く消えていった。友達なのかと尋ねたくなったが、自分の中の嫉妬心に気づき、やめた。

「今日も家に来るのか?」

「行くよー。へへ、今日は美味しいご飯を作っちゃうよ!」

「お、楽しみだ」

 健の家に着き、ビーフシチューを作りながら芳乃は思考を巡らせている。健を好きな気持ち、ずっと忘れないでいたいと。どうしたらこの感情を保っていられるのかと。そして、ビーフシチューが完成する頃、忘れることはなさそうだという結論に至った。

「健、お皿とって」

「どの皿?」

食器棚の前で悩んでいる。カレー皿に決まっているのに、と芳乃は思う。そんなところが可愛くて好きだ、とも思った。

「底が深いやつ、カレー皿」

「オッケー」

健も芳乃も、誰にも邪魔されないこの時空間で幸せを享受している。このままずっといられたら、と考えている。

「ねぇ、私、そろそろ人じゃいられなくなりそう」

シチューを皿に移しながら、真剣な顔で告げた。

「あのね、今、私は『健に嫌われる』って発想が無いくらい満ち足りてるの。これ以上望めないくらい。でもそんなの人間らしくないの。不安と欲があるから、人って人間なんだと思う」

健は芳乃の言葉を反芻した。不安と欲。それなら今の俺はとても人間だ。芳乃を独占したい。嫉妬心に悩んでいる。

「私、人間でいたいの」

「芳乃、それが人間なら、俺は人間じゃなくていい」

「どうして?」

「不安も欲も無くしたい。平穏な心で芳乃と一緒にいたい」

食器を机に運びながら、芳乃は淡々と言った。

「私はね、昔も今もずっと死にたがってるの。でも、ただ死ぬんじゃなくて、人間として死にたいの。そして、どうせなら世界で一番美しい場所で、不安も欲もごちゃ混ぜにして死にたいの」

食事の用意が終わり、二人は椅子に座る。意を決した芳乃の言葉が健の耳を静かに突いた。

「一緒に死んで」

毒は斯くありき(プロット3)

毒は斯くありき(プロット1) - あれも欲しいしこれも欲しい

毒は斯くありき(プロット2) - あれも欲しいしこれも欲しい

 

十月半ばを過ぎ、日中でもかなり過ごしやすくなった。夏、竹下芳乃との一件以来、健は安曇野教授の著書を読み耽けっている。後期授業では、安曇野教授が所属する学科ではないにもかかわらず講義を受講している。

 バドミントンサークルで相変わらずペアを組んでいる健と真二は、芳乃を話題にしながらシャトルを打ち合っている。

「竹下は、つまり、健とどういう関係なの?」

普段の簡潔さを感じない歯切れの悪さに、健は笑いながら応えた。

「別に、友達だよ。少し学面で気が合ってるだけだ」

「授業、ほとんど一緒なのに?」

「気が合うだけだよ」

「好きなんじゃないの?」

「今日はよくしゃべるな」

健と真二は中学校から同じ道を進んでいる。染谷家と小林家の親交も深く、親同士での情報交換は当たり前に行われている。

「おばさんに頼まれてるからだよ」

バツが悪そうに、真二が口を開く。

「断ってもいいんだぞ」

 

 ダイニングバーで二杯だけ飲み、健と真二は帰路についた。体育館で苦言を呈したためか、バーでその話題が上がることはなかった。

 じゃ、またな、と健は真二に告げ、学生アパートのエントランスに入った。築十五年、家賃四万八千円と、周辺の学生アパートの中では立派な方だ。

 扉を開くと、部屋の奥の方で芳乃がヘッドホンを着け横になっている姿が見えた。

 またか、と健はため息をつく。合鍵なんて渡すんじゃなかったと考え、同時に、合鍵を渡すことによって得られた幸せを想起し、自己嫌悪に陥った。

 

 健は芳乃に近づき、小さな声で名前を呼んだ。起きる気配はない。

 また睡眠薬に頼ったな、と健は察した。小さな体をベッドに運び、自身もその隣で横になった。

 竹下芳乃の両腕・両脚には傷跡があった。リストカットのようなもので、腕や脚にも衝動的に傷をつけてしまうそうだ。その傷跡を見た翌日、健は部屋の鍵を渡した。辛くなったらいつでも来いと優しい言葉をかけながら。

毒は斯くありき(プロット2)

bor-1124.hatenablog.com

空になった二つのグラスを店員の女の子が片付ける。健は同じものをと注文し、程なくスーズトニックが目の前に置かれた。

一口飲み、ふと隣を見るとそこにいた奇妙な存在と目があった。何度か見た顔だ。おそらく同じ農学部の学生だ。二年次の頃、学部全体の授業でその顔ーーというよりその色ーーを見た覚えがある。

「さっきの話さ」

その奇妙な存在は話しかけて来た。

「私、さっきのあなたの話、分かる」

健は戸惑いながらも、そう、とだけ返した。

「多分さ、このピンクが春には足りないと思うんだよね。どう?」

「……ピンク。そうだなぁ、あまり見ないピンク色だ」

「いいでしょ、このジャケット。私が染めたんだよ」

コットン生地のテーラードジャケットだけでなく、チノパンもピアスもその色で統一されている。

「すごいな、凝り性なんだな」

「分かってくれる?へへー、良いでしょ」

少年のような笑い方だと考える健をよそに、その存在は続けた。

「桜色」

聞き慣れない単語が宙を舞う。

「この色ね、桜色っていうの」

 

健は怪訝な表情で訪ねた。

「桜ね、系統は同じかもしれないけど、もっと濃い色じゃないか?」

そういえば、私の名前は芳乃、と前置きを挟み、芳乃は返答した。

「あなたも農学部でしょう?安曇野先生の著書に写真が載っているのだけど、見てないの?」

ゲンチアナの香りを口に近づけ、思考をまとめ、健は応えた。

「今日、多分、見たな。ソメイヨシノのこと?」

そうよ、と芳乃は満足そうに頷いた。

安曇野先生はソメイヨシノの研究をしてるの。スポンサーがつかないから他のことも研究してるのだけど。廃材を菌床にして冬虫夏草を増やすのとか。先生は馬鹿げてるって言ってたけど」

冬虫夏草は蛾に寄生するだろ。木じゃ菌糸は育たない」

「それでもスポンサーがお金を出してくれるんだもの。無知なのにお金があるなんて不気味よね」

「そんなもんさ」

「それでね、その話は置いといて、春にソメイヨシノが咲けば、とっても素敵だと思わない?」

健は赤くなった顔を横に振った。

「毒の木なんて、どうしようもないな」

ーーーーそういえば、長袖なんか着て、彼女は暑くないのだろうか。

毒は斯くありき(プロット1)

毒は斯くありき(プロット)

 

ソメイヨシノには毒があります」

農学部棟に流れる日常。キャンパスのBGMと化した植物学概論で、講師の台詞が健の耳に残った。

ソメイヨシノには毒がある」

 

 

染谷健は、自身と名を同じくするその桜の品種についての話に聞き入っていた。

ソメイヨシノ

花粉及び蒸散により樹木内に蓄積されている毒素が待機中に放出されるという話だ。接木の繰り返しで発生した変異であり、まだ毒を持たなかった頃は日本の国木に指定されていたらしい。現存する個体は国有林に約三十株。群生しているそうだ。そこで厳重に管理している限り、毒が我々の生活圏に届くことはない。さらにソメイヨシノは接ぎ木でしか増えないため、群生地が拡大することもなく、問題にはなり得ない。

ソメイヨシノのカラー写真がテキストに載っている。薄いピンク。薄紅をさらに淡くしたような、儚い花弁だ。

 

 

十六時半。第二体育館から乾いた打音が響く。室内シューズと床の接する音が耳に障る。

健はいつものように小林真二とペアでシャトルを打ち合っている。梅雨明けの蒸し暑い夕方。窓は閉められ、体育館には不快な空気が充満している。

「なぁ、この後飲みに行こうぜ」

「いいよ」

真二との会話は滅多に長引くことがない。それが健には心地よかった。

 

「なんか春って苦手なんだよな。淡い寒色と若緑だけじゃん。イベントもないし」

「そんなもんだよ。お前、春を何回も経験してるだろ」

「悲しいじゃん。寂しいだけだろ、春なんて」

「自分が春生まれだからって贔屓しすぎだ。冬はどうなんだよ」

真二はいつも正論で切ってくれると健は思う。他の奴らは、当たり障りのない会話で盛り上げることに終始するだけだ。

「冬も寂しいけどさ、春に何かあれば冬もそれを待って楽しめるだろ」

「GWでも待ってろ」

外気に曝される二階の外の席。グラスの氷はすでに溶けて、大粒の水滴がテーブルに落ちる。周辺の学生で賑わうこのダイニングバーは、一杯五百円のメニューを売りにしている。マスターも営業中に酒を飲むため、五の段以外の計算ができなくなるからだと、健は先輩から聞いた。

「そうだ、健、お前、夏休みはどうするんだ」

グラスに残ったアーリータイムズを飲み干し、真二は続けた。

「たまには実家に帰れよ。部活ばっかじゃなくてさ」

「そうだなぁ、来年は就活だし、今年は帰っておくか」

「あとおばさんからのメールも返せよ。俺に連絡が来てるんだよ」

「本当かよ、すまん、返しておくよ」

「んじゃ俺、明日バイトだから帰るよ」

千円札と五百円玉をテーブルに置き、真二は一階へ繋がる階段に消えた。

Viscntiはいいぞ。

愛と物作りの国イタリア。

レザーの産地としてもド有名。

靴や時計もいいですよね。

まとめると、愛に生きる紳士の国であります。

 

熱狂的なファンも多いイタリア万年筆。今回はそんなお話をしようと思います。

 

イタリア万年筆といえばアウロラやデルタといったメーカーが有名です。

それぞれ代名詞となるモデルもあるのです。

アウロラならイプシロンオプティマ。デルタならドルチェビータ。

他にも個性的なメーカーが盛りだくさん。スティピュラやモンテグラッパなどなど。

ほぼ全てのメーカー・モデルでイタリアらしい洗練されたデザインを楽しめます。ドイツが機能美であるならば、イタリアは造形美。どの分野でもそんな感じですね。万年筆も例に漏れません。

 

そんなイタリア万年筆、通称イタ万の中でも僕がオススメしているメーカーがこちら。

Viscnti。

f:id:bor-1124:20170326233210j:image

こちらのViscntiで有名なモデルとして「ホモサピエンス」や「ミケランジェロ」が挙げられますが僕は「ゴッホシリーズ」「ダリシリーズ」を推したい。

写真左がゴッホの星月夜、右がダリのブラウンです。

どちらもペン先は鉄なんです。が、しかし、本当に鉄ペンなの!?ってほどタッチが柔らかい。国産4桁円ペンやLamyのSafariみたいな広く見かける鉄ペンとは比較になりません。この違いはペン先の大きさやカーブ、ハート穴の形状等に拠ります。

ペン先自体が大きいとインク保持量が多くなりインクフローが良くなります。柔らかく感じます。

ペン先のカーブが緩いほどタッチが柔らかくなります。カーブがきついほど硬い感触です。

ハート穴が横に広いと柔らかくなります。小さかったり縦長だと固く感じますね。

安い万年筆だと、そもそも万年筆に慣れているユーザーを想定していないので、高い筆圧にも(ある程度)耐えさせるために硬いタッチになってますね。

 

f:id:bor-1124:20170326234622j:image

f:id:bor-1124:20170326234644j:image

ゴッホのペン先です。いゃん、素敵。

イタリアなので、イタリアらしさがでてます。刻印のエッジ処理とか粗いですね。ここを愛せるかどうかがイタ万狂いになれるかどうなの分岐点です。

また、日本語を書くことには向いていません。ペンを立たせて書くことを想定してます。日本語を書く場合はペンを寝かせて書くことが多いのです。

この点は各地で開かれているペンクリニックで「寝かせて書けるようにしてください」って依頼してください。基本無料でやってくれます。よしなに。

 

さて、イタ万はなにより軸が素敵です。こちらを。

f:id:bor-1124:20170326235040j:image

こちらはダリです。

クリップに「溶ける時計」があります。濡れる。さらに軸のグラデーションが……。さらに軸は半透明で、少し奥の模様も見えています。いくつかの色を混ぜ爆発させて作っているという噂を聞いたことがあります。狙ったところで同じ模様は作れないという面白い感じです。

 

Viscntiはいいぞ。。。

大学卒業してちょっと経った頃のSSを見つけたから手直しして世に出してみる

なぜか冷たい

 

昨日買った缶コーヒーを机に置きっぱなしにしていた
冷蔵庫に入れるため持ち上げると、冷たい


昨夜は熱帯夜だ
どうしてこんなことが


と彼女に話してみた


「へー、それ私みたいね」

「どこが?」

「冷たいでしょう?」

「そう?」

「そうなの」

「僕はきみのこと好きだよ」

「私は冷めたの」

「そっか」

「それじゃ、さよなら」

 

その晩、机の上に置いていた缶コーヒーは
凍ってしまうんじゃないかと思うほど冷たかった

 

寝苦しい夜が続くので、枕元に置いてみた
冷気が顔に当たって心地よい

 

安眠の友は、毎晩僕を寝かせてくれる
いつまでも冷たく冷えててほしいとさえ思う


残暑が続く、とある夜
友の不調に気付いた
どうにも冷えてくれない
このままだと眠れないじゃないか


そう考えていると、元・彼女からメールがきた


『やりなおしたいの』


冗談じゃない
僕は今、この友の不調で頭がいっぱいだ


『今はきみに使う時間はないよ』

 

友の不調が起きた夜から10日が過ぎた
たまに冷えることもあるが、だいたい熱くなったままだ
こんなに熱いんじゃ冷蔵庫にも入れられないじゃないか
いっそ捨ててしまおうかとも思う
それでも捨てなかったのは、不安だったからだ
友を心配していたからだ


そういえば元・彼女から、またメールが来ていた
『時間ができたら連絡して』
まったく、一方的に捨てたくせに、勝手なやつだ
友が快復するまで、連絡をする気にはなれない

 

といっても、この友の容体は芳しくない
あきらめるのも手か、と考え、気分転換に元・彼女にメールをしてみた


『失って気付く大切さがあるんだ
僕はもう大切なものを失いたくない
だから、今はきみのことは考えきれない』


電話だ

「新しい女ができたの?」

「そう思う?」

「思わない」

「その通り」

「大切なものって?」

「缶コーヒー」

「大切なの?」

「とても」

「バカ」

「そんな僕の恋人だったきみは、もっとバカだ」

「また好きになるなんて、人生の汚点よ」

「きみの人生はシミだらけだね」

「缶コーヒーのシミは無いわ」

「そのシミは僕のものだからね」

「あなたをクリーニングに出してやりたいわ」

「きみも負けてないよ」

「漂白してあげる」

「やめて、僕はこのシミを消したくない」

「シミが薄くなるころに、また連絡するわ」

 

友は、常温になっていた
僕としてはもう少し冷えてほしいが、熱くないだけ救われた


それから徐々に友は冷えていった
安定してきている
これなら大丈夫そうだ、憂いは消えた


「シミは残ってるけど、もう目立たないよ」

「そう、私もそんな感じ」

「よりを戻すの?」

「どうかしら、また冷めてきたわ」

「そうなんだ」

「でも、あなたといるなら、これくらいがいいのかも」

「そう」

「ええ、冷たく接することもあるはずだけど、それでもいいなら」

「冷たいほうがいいな」

「あなた、マゾだった?」

「いや、でも、友人も恋人も、冷たいくらいがちょうどいいって分かったのさ」

「そうかも」

「それじゃ、シミだらけの僕をよろしく」

「毎年、漂白剤をプレゼントするわね」

「やめて」

 


end